統合失調症と向き合う

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榎田伸也さん
榎田伸也さん
(えのきだ・しんや)
35歳、男性。22歳のときに発病し、2000年、26歳のときから2年間、入院を体験する。現在は2週間に1回通院。地域活動支援センター「ふらっと」を活用しながら、詩の創作他さまざまな活動に意欲的に取り組んでいる。両親、妹との4人家族。
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7症状安定のターニングポイント

「正直言って、何年の何月ぐらいまで症状が悪くて、この頃から良くなったというふうに線引きはできないと思うんですね。なんて言うかな、僕らみたいな統合失調症の患者というのは波があると思うんですよね。波を繰り返しながら、ときには、波がすごく高まって調子を崩したり、と思うと波が繰り返しながら漸減(ぜんげん)していくというか、その状態が長く続くと調子がいいっていうふうに言われるんでしょう。

専門用語で寛解(かんかい)という言葉がありますよね。完全に治るということじゃなくて、広い寛大の寛に、解決の解ですか。100%治るってわけじゃないんだけども、7、8割、症状が落ち着いていたら良しとしよう。僕はそういう考え方なんですね。だから、統合失調症を完治しようなんてさらさら思っていません。もう一生薬飲んでもいいぐらいに思っているんですね。それぐらい気楽に構えてないと。『治すんだ治すんだ』と頑張っているうちは治らないと思うんですよ。だから、ほんとに7、8割でまあまあのところで、『ま、いいか』っていうような感じでね、落ち着かせるっていうのもいいんじゃない、大切なことなんじゃないかなと思います。」

●家族の支え

「入院中も、精神的に不安定なこともあったんですが、家族からの温かい眼差し、そういったものが少しずつ自分にとって回復に向かわせくれる糸口だったように思うんですよね。もしあのとき家族がまったく理解を示してくれなかったら、回復はずっとずっと遅れていたんじゃないかなあと思うんです。」

●社会支援との出会い

「『社会福祉法人 萌』と出会ったことも、1つの大きなターニングポイントだったと思います。このことが、ある意味、大袈裟ですが、自分の今後の人生を大きく方向づけたんじゃないかなあと思います。通っている場の雰囲気ですとか、職員さんの接し方が、私の水に合ったんですね。とってもいい方向に影響を及ぼして、今日まで来ているって感じですね。

そもそものきっかけは、入院中に心理療法というのがあったんですね。2週間か3週間に1回ぐらいのペースで心理検査室というところに行って、心理検査とか、絵を描いたりとか、ロールシャッハとかそういうものをやっていたんです。で、そこの先生が『マインドなら』を見せたんですね。はじめて僕、目にしたんです。『マインドなら』というのは、奈良県下での精神保健福祉に関する機関誌なんですけど、その中に『社会福祉法人 萌』のことが載っていた。で、こういうところもあるよっていうことを聞いていたんですね、入院中に。で、退院してから、体力がある程度回復していった頃、退院した年の夏頃から、施設を利用し始めたんです。

たまたまタイムリーというかラッキーなことに、その年にちょうど地域生活支援センター『ふらっと』ができたんです。ちょっと通ってみようかなあということで、行き始めたんですね。最初はとにかくもう緊張でガチガチでした。人としゃべるのも、なんにもできないっていうかね、もう居るだけで精一杯だったんですけど、自分と症状は違うとはいえ、心になんらかのハンディを抱えている人たちと同じ空間で居る、過ごしているうちに、何か自分のなかで強ばっていたものがほぐれていったような、そんな感じがしました。

で、次の年には、『ふらっと』とは別の自治体にある、当時で言う、『小規模通所授産施設』ですね、今は制度が変わって『多機能型事業所』と言うんですけど、そこへ通えるほど、状態が安定していた。『社会福祉法人 萌』の施設に入り始めてから、退院後、みるみる回復していった。2〜3年で体験発表ができるようになったぐらいですから、かなりのペースやったとは思います。

勧誘はなかったけども、たぶん私自身が行ってみたいという気持ちが強かったんだと思います。やっぱり家でこの先ブラブラしても仕方がないし、そういう施設があるんだったら、取りあえずちょっと見学してみようかということで、最初は行ってみて、数か月通っているうちに馴染んでいったという感じですね。」

●人の持つ力

「やっぱり人の力でしょうね。なんて言うか、ここでは、スタッフ・メンバー、というように、職員と利用者を言っているんですけど、メンバーの力って結構大きいんですよ。やっぱり、ただそこに居るだけで、ちょっとしゃべってくるだけでも、気持ちがフッとほぐれたり…。あと、『萌』の施設って対等性が高いと思うんですよね。スタッフとメンバーの垣根がないというか、非常にお互いしゃべりやすい。スタッフも、決して高飛車に出ない。同じ目線でいてくれるということに、大きな安心感を持てた。それが、回復へ大きな方向づけをする道筋、きっかけだったのかなと思いますね。」

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