統合失調症と向き合う

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A.T.さん
香菜世さん
(かなよ)
1989年生まれの24歳(収録時)。中学生の時に症状が出現し精神科を受診する。中学・高校と学校でのサポートを受けながら学校生活を送った。家族(両親、兄・弟、犬が一匹)と同居し、働いたこともあったが、現在は家事を中心とした生活を送っている。自身の詩集(『ココにいるよ』、文芸社、2012年6月)を発行し、NHKのハート展で受賞した経歴をもつ。収録には母親も同席し、親としての気持ちも一部、掲載した。
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16母親としての想い
Q.香菜世さんがリストカットしていた時の気持ちを教えていただけますか

「正直、半分以上忘れているのですけれど。そこを憶えているとやっぱり乗り越えられないから、今でも当時のことを思い出すと……。

ほんとにね、悪かったのは周りの大人なのです。で、いっちばん悪かったのは親だったなと思います。その時、本人がとっても苦しんでいたものを分かってあげられなかった。ああ、馬鹿な親なのですよ。どう対処していいかも分からなくて。今だったら、『ああ、すごくSOSなんだな』と分かるけれども、当時の私は、なんだろう、(娘が)インターネットの世界に染まって、流行にちょっと乗っかっちゃったみたいな、ちょっと嫌なことがあったから、流行でちょっとやってみたら、なんか(リストカットを)やっちゃった。で、ある意味、親に対するいろんな反抗的な気持ちもあったりして、そういうものをぶつける場としてやった、やっちゃた? だから、本人のSOSとは取られなかったのです。

で、どうしていいか分からなくて、彼女が買ってくるカッターを全部隠したのですけれど、隠したらまた次の日に買ってくるんですよね。お小遣いを持っているのだから買えるわけですよ。でもどうしていいか分からなくて。で、『病院に行ったほうがいいですよ』と保健の先生に言われて初めて私は、『あ、これは病気なんだ』と思いました。」

Q.病気を受け入れられましたか

「それでもまだね、お医者に行くのにためらいがあって、紹介された病院の相談室というところに電話をしているのですよね。そしたら、そこの相談室の人が、『それはもう相談のレベルではなく、すぐに先生に相談しなさい』と言われて、その場で、たまたま空きのあった初診の枠に入れていただいて、すぐに診られたんですね。だから比較的早く受診はできたのですけれども。

そういう親なので、何も知識がないまま、お医者様の言われる通り…。彼女が『病識がなかった』と言いましたけど、私もなかった。なんで薬を飲まなければいけないのか、なんで入院しなければいけないのか。『なんで?』と。分からないのですけれども、とにかく、娘に対してどう対応していいのか分からないので、お医者様の言う通り。

で、具合が悪いからどうしていいか分からない。で、病院に行きますよね。ところが、病院に行くとそんなに毎週毎週来るのだったら、お家ではもう対応できないだろうから入院してくださいと言われたのが、ほとんど入院のきっかけなのですけれど。『あ、この状態は、入院しなければならない状態なんだ』と思ったんですね。

で、娘に『退院したい』と言われて、でもやっぱりお医者様の話を聞きますと、『入院の中でこういうことがあって心配な状態です』と言われたら、『やっぱりそうか』と思いますよね。だから、あ、まだ退院はできない。外泊はできたのですけれど。で、どんどんどんどん具合が悪くなっていくように見えるのです。

今の私なら、あれは薬のせいだなと思います。感情の起伏が激しいから、それを抑えるために薬を飲ませますよね。で、薬を飲めば、当然ふらふらもするし、ほんとにあの時、しょっちゅう貧血みたいな、めまいのような…。で、『集中力がない』と言ってみたり。夜眠れないと言えば薬を飲み、でも昼間はいつも眠いと、ぼーっとしているし。で、頭が痛いとか、なんかかっとなりやすかったりというのも、今だったらそれも副作用だったなと思いますね。だから今の私の知識をあの当時持っていたら、とっくに病院を変えますね。」

Q.お母様が病気について勉強しはじめたのはいつ頃ですか

「彼女が退院して、すぐに高校に入って…。で、当時、通信制なのですけれども、そこの学校は通学コースというのがあって、そこに通っていたのですよ。で、そこでお勉強する。ま、そういうふうにやって、同世代のお友達が増えたらいいなあと思って、行ったのですけれど。その時に結局お薬を飲んでいると眠くなっちゃうし。で、『もう、どうもこうできない。日中保っていられない』ということもあって、退院したんだし、もうこれからはお薬に頼らないで、楽しくやっていきましょうよと、『じゃ、薬止めてもいいんじゃない?』と…。

そういう知識のない親なのですよね。で、(服薬を)止めさせてしまったのです。娘は親がそう言うのだからと素直に止めました。(する)と、2週間、3週間経った頃から、すごく彼女は、『私、毎日楽しい』と学校(に)行っていたんです。で、ある時、飲まないで溜まっていたお薬を全部飲んでしまって、救急車で運ばれたのですけれども。

その時の彼女、それは1回目なのですね、彼女に『なんでそんなことやったの?』と聞いたら、『すごく幸せだから……、幸せのまんまね、死んじゃおうと思った』と。考えられない理由でしたけど。で、その時にかかった救急病院の先生から、今まで飲んでいたお薬を急に止めちゃえば、そういう反動のものが起こると。それも副作用だから、やっぱり急に止めるということは良くないので、これだけは飲んでいてくださいなと1種類だけ処方されたのですね。

で、まあ、そのあともう一度、元の病院に戻って。で、その前に大量に飲んでいたお薬はいったん止めて、1週間ぐらい経っていましたので、ま、体からある程度抜けていたので、また少しずつから再開して、(服薬が)始まったのです。

でも、やっぱり同じ病院なので、ドクターは変わっていましたけれど、だんだんだんだん(薬が)増えていきました。でも、その時にはやっぱり、私がどうしていいのか分からないので、その時初めて先生に、『娘の病気は一体何なんですか?』と聞いたのですよ。その前は、 “適応障害”という診断書をいただいたことがあって。適応障害って、なんとなく今ではすごくポピュラーな名前ですよね。だからあまり重きを感じなかった。

適応障害だと思い込んでいたものが、2度目の、3人目だったかな?の主治医に、適応障害と聞いた割には、いつまで経ってもその状態が続いているし、こんなに具合が悪いと言ったら、『お母さん、娘さんは統合失調症です』と初めて言われて…、びっくりしましたね。

その時に、統合失調症とはなんだろうと。先生に、勉強するのでどういう本を読んだらいいのか、先生のお勧めの本を教えてくださいとお願いをした時に、その先生が教えてくださったのが、たぶんお医者様達が読むようなこんな5〜6pある『精神分裂症』という、昔の名前ですね、の題名の、海外の文献の翻訳本なのです。大変難しかったです。ものすごく難しくて。でもお医者様が読むいろんな症例の書いてある本なので…。

まあ、それはそれは、ほんとに寝込んでしまいました、私、それ(その本を)読んで。ほんとにこんな病気、行く末にまるで希望がない本なのですよ。『こんな病気になってしまったのか』と思った時に、でもそれと同時にですね、本屋さんでもいろいろ見つけて、家族向けの本だったりもいろいろ読みながら少し分かったのは、世の中に意外とたくさんいるんだなということ。で、たくさんいて、なんとか生活している人がいるんだなと…、少しずつね。

でも、あくまでも、それはお医者さんの書いた本なので、病気のことは分かったけれども、じゃ、家族と本人は、日常生活をどうしたらいいのか、どうこれから生きていったらいいのか、そういった具体的なことを誰も教えてくれないわけですよ。だからずっと探していたのです。

いろんな本を読んではみたもののやはりお医者様の書いた本で、病気の説明、こういう時は医師に相談してください。でもお医者様に相談といっても病状の相談であって、彼女の人生についての相談は誰も受けつけてくれないですし、役所は、福祉サービスの利用方法は教えてくれますけれども、具体的に親がどうサポートしていったらいいのか、この先彼女はどうやって生きていけばいいのか、それこそ学校に行って、就職できるのか、結婚できるのか、他の兄弟はどういうふうに関わっていったらいいのか、子どもは産めるのかとか、もういろんなことを考えましたよね。だから少し先の先輩の話が聞きたかったですね。

そうやって(情報を)求めている時に、たまたま読売新聞に、そういう雑誌が創刊されるというのを見て、私、飛びつきました。で、毎月毎月本当に食い入るように読んでいましたね。大きかったです。最新の情報が入っていましたから。」

Q.病気の知識がないことをどう思いますか

「怖いですね。怖いです。もし本当に知識があったら、彼女はこんなに長い間苦しまなかったと思う。お医者様のせいだとは言いません。お医者様一所懸命やってくれましたから。でも、その時代その時代の、なんて言うのでしょうね、がんの治療も日進月歩ですよね? で、今、精神病のお薬というのも日進月歩で出ていますよね。だからそういった常に新しいものを取り入れてほしいわけですね。もちろん、きちんと使い方が分かった上で、ですけれども、新しい情報をほんとに早くほしいなと、いつも思います。

今、思えばです。だから正しい知識、情報。またそれをきちんと自分で咀嚼(そしゃく)するというか、こなして、それを自分の人生にどう活かすかですよね。そこが一番かなと思いますね。まだまだ、暗中模索ですね。」

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