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濱 敏弘 さん
(はま・としひろ)
癌研有明病院 薬剤部長
1980年明治薬科大学卒業。国立横浜病院、国立療養所中野病院、国立国際医療センターを経て、2006年より癌研有明病院に勤務。がん専門薬剤師認定試験委員長を務める。
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5分子標的治療薬とは

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「従来の抗がん剤と比較をしながらお話します。従来の抗がん剤は、細胞分裂の過程に直接作用して、細胞死を起こすサイトトキシック(cytotoxic=殺細胞性)な作用をもつ薬剤です。そのため、がん細胞だけでなく正常細胞に対しても同じように障害を与えていました。

それに対して、分子標的治療薬はがん細胞に特異的な分子の働きを阻害し、細胞増殖を抑制するサイトスタティック(cytostatic=細胞増殖抑制)な作用を有する薬剤です。そのため分子標的治療薬はがん細胞に選択性が高く、従来の抗がん剤のように正常細胞を傷つけずに蓄積性も持たないので、従来の抗がん剤に共通してみられた、重篤な副作用などがみられません。

分子標的治療薬は、確かにこれまでの抗がん剤に共通してみられた、骨髄抑制や消化器症状などの副作用がなくなりました。しかし今までの抗がん剤では予想できなかった新しい副作用がみられます。それは間質性肺炎・高血圧・心毒性・血栓症・消化管穿孔・皮疹などの皮膚障害などが報告されています。過敏反応もみられます。分子標的治療薬は骨髄抑制や消化器症状のない夢の抗がん剤といわれかけたこともありますが、決して副作用がない薬ではなく、しっかりとした副作用管理が必要な薬剤です。」

●大腸がんの分子標的治療薬の副作用

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「大腸がんに使用する分子標的治療薬は、ベバシズマブとセツキシマブがあります。今まで紹介してきたような副作用はありませんが、それぞれ特徴的な副作用があります(右表)。分子標的治療薬も副作用には注意が必要です。

ベバシズマブの副作用には高血圧があります。自宅でも血圧を毎日測定して、血圧がコントロールされていることを確認してください。血圧が高いときには血圧を下げる薬を用います。頻度は高くありませんが、消化管穿孔・出血・血栓症・傷が治りにくい、などがあります。いずれも起こると重大なものですから注意が必要です。

セツキシマブの副作用には、投与時の過敏反応であるインフュージョンリアクションと皮膚障害があります。主な皮膚症状として、にきび様症状・発疹・皮膚の乾燥・かゆみなどが現れます。顔面・胸・背部によく出現します。加えて爪の障害が現れます。治療開始後1〜3週間で発現します。

【補足解説】セツキシマブは、がん細胞のEGFR(上皮増殖因子レセプター)に特異的に作用し、がんを抑えます。しかしこのEGFRはがん細胞だけでなく正常な皮膚にも存在します。そのためセツキシマブが皮膚のEGFRにも結合して皮膚障害を起こすと考えられています。

この皮膚症状は臨床効果と相関することが報告されています。つまり、皮膚障害があるということは、がん細胞にも効いているということになります。発現をしても、すぐに中止・減量することなく様子をみます。治療開始後、約1ヵ月から2ヵ月で治まる患者さんもいらっしゃいます。」