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池淵恵美さん
池淵恵美さん
(いけぶち えみ)
帝京大学医学部精神神経科学部講座主任教授
1978年東京大学医学部を卒業し、同年4月に東大病院精神神経科勤務。1992年4月帝京大学医学部精神神経科に勤務し、現在に至る。2005年1月より帝京大学医学部精神神経科教授。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。統合失調症の心理社会的治療、精神障害リハビリテーション、認知行動療法を研究している。
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1「リカバリー」とは
Q.最近、よく聞かれる「リカバリー」という言葉の意味を教えてください

「どうして日本語で『回復』と言わないのかということですよね。精神障害に限らず、身体障害でも知的障害でもそうなのですけれども、基本的には医学的な面で見て元の機能に戻る、それが『回復』というふうに考えられていますよね。けれども、まだ、医学の限界があったり、生まれた時からの体質であったりということで、元に戻ってまったく一般の人と同じようにということが難しい場合は結構あると思うのです。そういう障害を持っている人がどう生きていくかということを考えた時に、単純に『元に戻る』ではなく、『リカバリー』という考え方が出てきたということです。

結構、身体障害の方などは、だいぶ前からそういうような言葉は『リカバリー』とは言われなくても、『地域の中で回復していくんだ』、『自分の人生を生きるんだ』というようなことをおっしゃっておられて、自立して生きていくということをすごく主張されたりということはあったのですけれども、精神の方はちょっと遅れていたのですね。

たぶん精神の中で『リカバリー』という言葉がとても注目されるようになったのは、一つは、今から20年ぐらい前になるのですけれども、米国のパトリシア・ディーガンという方が、ご本人が統合失調症で心理学者、専門家でもある方ですけども、ご自分がある日突然、自分の生きるという力が戻ってきた。ある日突然と言っても、もちろんいろいろな伏線はあるのですが、自分らしい生き方ができるようになった。そういうリカバリーしていくというのは、その人の本当に主体的な体験であって、医学とか専門家がどうこうということではないんだというようなことを話されて、論文に書かれたりして注目を集めたのです。

その後、何人かの専門家が、そのリカバリーということを概念化したのです。どういうことかと言うと、残念ながら少し障害がある場合に、障害があるにもかかわらず、あってもなくてもということですけど、その人なりの人生が生きられるとか、自分なりの社会的存在を取り戻すことができる。そういうことを『リカバリー』と呼ぼうということなので、日本語で言っている『回復・治る』とはちょっと意味合いが違うのですね。いろいろなことを含んだ考え方なものですから、日本の場合だとカタカナで『リカバリー』と言われることが多いということなのです。」

Q.立場によって「リカバリー」の意味は異なるのでしょうか

「ご本人にとってのリカバリーは、いくつかあると思うのですが、一つは、やはり元気になることですよね。納得できる生活が送れているとか、希望が持てるとか、毎日が苦しくないとか、自分の夢が実現できるとか、本人の中にあるリカバリーだと思うのです。

専門家からすると、一つはやはりいろいろな精神医学的な症状が改善すること。当たり前ですけどね。幻聴が良くなったり……。あとは、やはり客観的に見て、社会生活をする力が回復していくことが専門家から見たリカバリーという側面だと思います。

ご家族からすると、家族と良い関係が持てる、友達と良い関係が持てる、自分なりに自立してその年齢にふさわしいような生活をしてほしい、家族が本当にいつも側で支えないで済むようになってほしいなどいろいろだから、違うと思うのです。何がリカバリーかはその人の立場によって違うということは知っておかれると良いことですね。」

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