統合失調症と向き合う

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高森信子さん
高森 信子さん
(たかもり・のぶこ)
こころの相談員/SSTリーダー
小学校や幼稚園の教師を経て、子どものこころのアートセラピストとして、幼児・学生の美術教育に15年携わる。1985年よりカウンセラーとして活動を始め、その後東京大学デイホスピタルでのSSTリーダー研修を経て、1989年より地域作業所、デイケア、家族会などで当事者や家族のためのSSTリーダーとして活動中。最近では、保健関係者や他分野からの依頼もあり、年間約300回のSSTのために全国に出向いている。著書に「家族が知りたい統合失調症への対応Q&A」「心病む人のための高森流コミュニケーションQ&A」(いずれも日本評論社)などがある。
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1SSTとは

「SSTを正確に言うと、ソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST;Social Skills Training 社会生活技能訓練)と言って、その頭をとってSSTと言うのですが、直訳すれば、社会生活の技能を訓練しましょうということですね。

社会生活の技能とは何かというと、まず信号を受け取る受信技能。目でも耳でも受け取りますよね、皮膚で受け取ることもありますよね。それから頭で考える処理技能、それから今度は自分が相手に伝える送信技能。その3つでコミュニケーションを図っているんですね。その3つをトレーニングしましょうというのが、直訳的な中身。

それをもっと平たく言えば、相手の気持ちが分かって、自分の気持ちも言えて、お互いにより良い人間関係、生産的な関係になるためのお勉強ということですよね。これは、アメリカのリバーマン先生が考え出された方法で、治療法なんです。

お医者さんにとっては、治してあげたい。患者さんと向き合う時に患者さんの中にいろいろと“フィルター”という言葉を使わせていただきますが、フィルターを私達人間みんながもっているんです。個性と言えば個性なのですが、厚い人、薄い人がいます。そのフィルターの中身を言えば、まず価値観とか、人を計る物差しとか、色眼鏡とか、それから思い込みとか癖とか、いろいろあるわけですよね。

もう少し分かりやすく言えば、相手を見る時に『この人ほんとに頑固で人の話を聞かない』とか、『この人いつまでも要領の悪い話を延々とやる人だ』とか、『この人はまったく口を聞かない』、『無感動な人だ』とか、そういう思い込みで相手を見てしまう。それを薄くしたほうが人間は自由になるというので、カウンセリングというのがあるのですが、精神科の先生が一人ひとりの患者さんのカウンセリングをやるとしたら、とても時間がかかって、患者さんの数が多いので大変なんですね。それで、リバーマン先生が集団で、フィルターを通さない会話の仕方というものをできないかというので考え出されたのが、このSSTの技法なんですね。」

●フィルターの例

「1人のお母さんの例で言えば、息子さんをとっても大事に思っているんですが、あまり質問しないというお母さんの癖があるんですね。で、うちの息子はいつも両極端を頭に入れている。例えば『おいしい』というのがあるとすると『まずい』という、『楽しい』というのがあると『辛い』という相反するものを、あの子はいつも一緒に頭の中に入れている子だと思いますという話を聞いてね。で、私も(その)話が抽象的なので、『どういう時にそれを感じたんですか?』と言ったら、ある場所なんですが、某研究所に、先生に誘われて、(息子が)1人で行ったわけです。で、帰ってきて玄関を開けたとたんに『お母さん良かったよ、すごく良かったよ』と、とても晴れやかな顔をして帰ってきた。で、自分の部屋に行って洋服を脱いで居間に戻ってきた時に、『お母さんやっぱり辛いよ、大変だよ』という(息子の)話を聞いて、お母さんは、良かったよというのと辛かったよというのを、この子はいつでも併せ持っている子なんだという思いがこびりつきそうになっちゃったんですよね。

それで私が、楽しいのは何だったのか辛かったのは何なのかを(お母さんが)聞いていないと言うので、聞いてくださいと宿題を出しました。それで、お母さんが聞いたらば、研究所はとても良かった、本当に行って良かった。辛かったよ、大変だよというのは、途中に大きな駅が2つあるんですよね。そこの人ごみの多さにもう圧倒されて、それがとても辛かったという話が分かって、『なあーんだ』ということなんですが。

お母さんがそれを聞かなければ、絶えず息子さんが発言する度に、このご飯おいしいねと言ったとたんにまずいと思っているんじゃないかみたいなフィルターがついてしまうということですね。」

ロバート・ポール・リバーマン:米国カリフォルニア大学医学部(UCLA)精神科の教授で、慢性精神障害に対する認知行動療法の一つとしてSSTを提唱した。
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